解体、改修における石綿則事前調査の解説と調査報告の義務
石綿則事前調査の背景と法的要件
石綿(アスベスト)は、かつて広く建築材料として使用されていましたが、その健康被害が明らかになり、現在では使用が禁止されています。しかし、過去に建設された建物には依然として石綿が含まれている場合が多く、解体や改修工事を行う際には特別な注意が必要です。これを受けて、撤去の必要のある工事前に石綿含有の有無を確認する「石綿則事前調査」が義務付けられています。
事前調査の目的
石綿則事前調査の目的は、工事によって発生する可能性のある石綿粉塵の飛散を防ぎ、作業者や周辺住民の健康を守ることです。具体的には、以下の事項が調査対象となります:
- 建物全体の石綿含有建材の有無
- 解体・改修箇所の詳細な石綿含有の確認
調査の手順
- 文書調査: 建物の設計図書や施工記録を確認し、石綿含有建材の使用有無をチェックします。特に、1970年代から1980年代に建設された建物は注意が必要です。
- 目視調査: 現場で目視により確認を行います。設計図書などの文書だけでは不十分な場合、現地での詳細な確認が必要です。
- サンプリング調査: 目視調査でも不明な点が残る場合は、建材のサンプリングを行い、専門の分析機関で石綿含有の有無を検査します。
調査結果の報告の義務
調査結果の報告は、以下の方法で行うことが義務付けられています。
- 電子報告システムの使用: 環境省と厚生労働省が共同で運営する「石綿事前調査結果報告システム」を利用し、オンラインで報告します。このシステムは、24時間利用可能で、労働基準監督署と地方自治体に同時に報告できる仕組みです。報告の対象となる工事は、建築物の解体工事(解体作業対象の床面積が80㎡以上)、建築物の改修工事(請負金額が税込み100万円以上)、工作物の解体・改修工事(請負金額が税込み100万円以上)、および鋼製の船舶の解体または改修工事(総トン数20トン以上)です。
- 書面報告: 電子報告が困難な場合には、書面での報告も認められています。しかし、この場合は労働基準監督署と地方自治体それぞれに提出する必要があります。
調査者の資格と要件
事前調査は、有資格者が行うことが義務付けられています。資格取得には以下の方法があります。
- 建築物石綿含有建材調査者講習の修了: 厚生労働省が認定する講習を受講し、修了試験に合格する必要があります。
- 分析調査者の認定: 公益社団法人日本作業環境測定協会や一般社団法人日本環境測定分析協会が実施する分析技術評価事業を通じて認定を受けることができます。
発注者の責務
工事の発注者には、以下の責務があります。
- 適切な実施の確保: 事前調査の適切な実施を確保するため、工期や費用面での配慮を行います。また、発注者は施工業者が適切に石綿対策を実施できるようにサポートする義務があります。
- 特定粉じん排出等作業実施届出書の提出: 大気汚染防止法に基づく特定粉じん排出等作業実施届出書を、法令で定められた期限までに地方自治体に提出する義務があります。
電子報告のメリット
電子報告システムには以下のメリットがあります。
- 時間と場所の制約がない: 行政機関の開庁日や開庁時間にかかわらず、いつでも報告を行うことができます。
- 効率的な報告: 1回の操作で労働基準監督署と地方自治体に同時に報告でき、複数の現場の報告もまとめて行うことができます。
今後の展望
2024年以降、石綿則事前調査の規制はさらに厳格化される予定です。特に、鋼製の船舶や特定の工作物の解体に関しては、追加の報告義務や資格要件が求められます。
石綿則事前調査は、工事の安全性を確保し、健康被害を防ぐために非常に重要なプロセスです。施工業者や発注者は、最新の法規制を遵守し、適切な調査と報告を行うことが求められます。
まとめ
一般の住宅や空き家の解体工事に関しては、発注者(施主)はこの調査の義務化を理解して、調査と分析に必要な費用を予算に組み込むことが必要です。義務化されている法令の遵守と作業に関わる人や近隣の人への健康被害を防ぐ意味でも重要です。